女性管理職の割合は44%、
職員の声を形にした働きやすい環境づくり

社会福祉法人奉優会近藤さん

1999年に設立し、現在は2,000名弱の職員と共に100事業所以上で介護サービスを提供する、社会福祉法人 奉優会。その成長の原動力には、設立当初からの法人理念として「女性が働きやすい環境づくりに注力」してきたことと、近年では「ダイバーシティを意識した採用活動と、Web・SNSを活用した採用・広報戦略」に取り組んできたことが挙げられます。

奉優会の理念を象徴する数字として、女性管理職の割合は法人全体で44%になるとのことです。インタビュー前編では、奉優会が女性が活躍しやすい環境をどのように作ってきたのかについて、人事部長の近藤麻美さんに伺いました。

<インタビュー後編はこちらから>「Web・SNSで法人の魅力を発信 事業所ごとに発信力を競う仕組みも」

女性管理職の積極登用で活躍を推進

――奉優会では、どのような介護サービスを提供しているのでしょうか。

提供している介護サービスは、特別養護老人ホーム、グループホーム、ケアハウス、デイサービス、認知症対応型デイサービス、ショートステイ、小規模多機能型居宅介護、訪問介護、居宅介護支援になります。その他、地域包括支援センター、高齢者福祉センター、地域ケアプラザなどの運営にも携わっています。

――サービスの提供規模や、職員の人数はどのくらいになりますか。

東京都世田谷区を中心に、一都二県で104事業所を展開しています。職員の人数は、2020年4月時点で1,989名が在籍しており、この春には新入社員として日本人25名、ベトナムとインドネシアを中心としたEPA採用による13名が新たな仲間として加わりました。

――奉優会では女性が働きやすい環境、制度づくりを設立当初から行っていると伺いましたが、そこにはどのような背景があるのでしょう?

理事長の香取は「女性が自立できる社会を作りたい」との思いから、奉優会の設立以前に家政婦紹介業を行っていました。その思いが奉優会にも受け継がれ、法人全体として女性の活躍を推進しています。

社会福祉法人奉優会の介護士さん

――女性の活躍を推進するため、どのような施策が取られているのでしょうか?

施策は多数ありますが、法人全体の取組の一つとして、女性管理職の積極的な登用を行っています。経営方針として「部長以上の管理職に占める女性の割合を50%にする」という目標を立てており、現在は法人全体における女性管理職が44%となっています。

――女性管理職の登用にあたり、取り組んでいることはありますか?

女性の活躍を推進する姿勢を法人として打ち出していますので、女性職員が管理職へのチャレンジを希望することが多いです。また、そのチャレンジに対し正当な評価を行えるよう、成果主義による評価制度を導入しています。

すべての事業所で、個人の感覚に左右されない明確かつ公平な成果指標を運用しており、管理職が務まると評価された人物はどんどん登用しています。

――個人の実力をしっかり反映する仕組みが取られているのですね。

評価制度が機能していることで、年齢や働き方などにも左右されず、管理職にふさわしいと評価された人物が登用できています。30代で部長に抜擢された女性もいますし、子育て中で時短勤務を活用しながら働く部長もいるんですよ。

ライフスタイルの変化を支える制度を充実

――女性の活躍を推進するため、他にはどのような制度を設けていますか?

無認可保育園しか子供の預け先がなく、金銭的な負担から復職が難しいという声に応え、保育料補助により復職をサポートする「for優キッズサポート」という制度を設けました。また、育児の時短勤務制度については、子供の年齢制限を設けずに時間短縮の延長を認める形を取っています。

――子供が小学校に入学する年度まで、といった時短勤務制度はよく聞きますが、年齢制限を設けないのは特徴的ですね。

お子さんが小学校に上がったばかりの家庭では、学童のお迎えなどでフルタイムの勤務が難しいという職員の声を受け、年齢制限を設けない形に制度を変更しました。時短勤務の延長は1年更新としています。

また、産休・育休中の職員は家にいる時間が長いため、育児や職場復帰への不安を感じることも多いという声がありました。そのような不安を解消するため、産休・育休中の職員と、産休・育休から復職した職員、人事部職員が顔を合わせる研修も年2回ほど行っています。

――研修の内容はどのようなものになるのでしょう?

職場復帰について、実際に時短勤務で働いている先輩ママさんから話を聞いたり、復帰後の勤務について人事部職員に直接相談できたりします。また、育児の悩みを育休中の職員同士で共有したりもしていますね。

特別養護老人ホーム目黒中央の家
「特別養護老人ホーム 目黒中央の家」には事業内保育所が設けられており、研修の際は子供を預けて職員同士で気兼ねなく話すことができる

――出産や育児に関するケアが手厚いと、働く職員にも安心感が生まれそうですね。

その他、子供が生まれてからだけではなく、妊娠が分かった段階からできるかぎりのサポートができるよう、「新任ママさんサポートブック」と呼ばれる産休・育休マニュアルを作成し、妊娠中の女性や事業所の責任者などに配布しています。

――サポートブックにはどのようなことが書かれているのでしょうか。

妊娠が分かった際、勤務中どのようなことに気をつけたらよいかといったことから、出産育児一時金・育児休業給付金といった制度についての説明や、復職までの流れをまとめています。自分で調べたり行政に確認をせずとも、このサポートブックがあれば出産・育児に安心して臨めるというものを目指して作りました。

――職員からの反応はいかがでしょう。

妊娠中の職員からは、どのような手続きをすればよいか分かりやすいと評判です。事業所の責任者からも、妊娠をしている職員への具体的な対応や、会社で定める制度などが把握でき、自信を持って妊娠中の職員に対応できるようになったという声があります。

――こういった数々のサポートによって、産休・育休に入る職員の数も増えていますか?

法人全体で常時30~40名が産休・育休に入っています。女性だけでなく男性の育児休業取得も積極的に促しており、徐々に取得する人が増えてきています。このような環境づくりに取り組んだ結果、当法人での産休・育休からの復職率は98%となっています。お子さんが生まれてライフスタイルが変わっても、引き続き安心して働いてもらえるよう、人事部としても今まで以上に良い制度づくりを進めていきたいですね。

――出産・育児以外のサポートにはどのような制度があるのでしょう?

就業している職員は世代的にご両親を中心とした家族介護に関わることが多く、介護事業を運営する法人として、介護離職をできる限り防ぐのは当然のことと考えています。そのため、当法人職員のご家族が奉優会の施設を利用する際に金銭的補助を行う「for優ケアサポート」という制度を設けました。

また、介護を始めとした家庭の事情などで、どうしても離職せざるを得ない人が出てくることもあります。そのような場合に家庭環境が落ち着き、奉優会でもう一度働きたいという意思を持つ人のため、退職時と同様のポジションで再び働くことができる「ウェルカムバック制度」を設けました。

職員満足度調査から、働きやすい仕組みを制度化

――ここまで沢山の制度をご紹介いただきましたが、これらはどのような形で制度化を進めたのでしょうか。

毎年行っている職員満足度調査(ES調査)の結果から課題を抽出したり、管理者が行う職員との定期面談で得られた個別の困りごとやニーズなどを人事部が拾い上げ、それらの解決につながる制度を提案し、実現してきました。

――職員満足度調査とはどのようなものですか?

毎年1回、無記名回答で実施する調査で、人事制度の効果測定や各事業所の課題抽出などに利用しています。人事制度の効果測定では法人の良いところ、制度の改善を希望するところなどについて、職員が意見を積極的に書いてくれるため、その調査結果を参考に制度の見直しを進めたりもします。

――職員一人ひとりの声を拾う、というのは中々大変そうですが。

少数の意見に対し、その人だけ特別扱いをするのではなく、会社全体の仕組みとして整備していくようにしています。そのことで、声を上げていない他の職員にも役に立つ仕組みとなっていくことを実感しています。約2,000名の職員一人ひとりの声をきっかけに「こういう制度があれば奉優会で働き続けられる」というものを仕組み・制度化していくことで、結果として働きやすい職場が実現していくことになります。

――そのような制度の積み重ねが、「くるみん」マーク取得や「えるぼし」認定など、働きやすさの証明にもなっているのですね。

おかげさまで、当法人の取組を様々な形で評価いただいています。また、女性の活躍推進を始めとした数々の制度が東京都に評価され、平成30年には「東京都女性活躍推進大賞 優秀賞」をいただくことができました。

社会福祉法人奉優会と小池都知事
東京都女性活躍推進大賞 贈呈式の様子(提供:社会福祉法人 奉優会)

――そのように作られてきた数々の制度を、社内に効果的に周知するため、どのような方法を取られているのでしょう?

職員の人数が多いため、一人ひとりに直接届けることは難しい部分があります。事業部長が集まる会議等で制度について都度案内したり、その他には年1回開催する事業計画発表会や、事例研究発表会で労務課の活動結果を報告したりしています。

――事例研究発表会とはどのようなものでしょうか。

毎年、社内外含め400人超が参加するイベントとなっていまして、介護事業所であれば「このようなケアが利用者様に効果的であった」など、各事業の取組を発表する機会です。その中で人事部も、その年度に実施した制度や仕組みの結果や、今後このような制度化を行っていく予定である、ということを広めていくようにしています。

――最後に、女性の活躍推進に限らず、人事部としてこれから制度化を予定しているものなどはありますか?

介護業界で離職原因の一つとも言われる「人間関係」についても、これまで職員同士が感謝の気持ちを伝え合うサンキューカードなどを制度化し、改善に努めてきました。今後はシステム上でサンキューカードを送り合えるようにし、サンキューカードを受け取った枚数が処遇にも直接反映されるなど、よりダイレクトに自分の評価として返ってくるようにしていければと思います。職員同士がお互いの良いところをより褒め合いやすくなる制度で、人間関係が一層良くなってくれればと考えています。

※本インタビューは2020年1月23日に取材を行いました

<インタビュー後編はこちらから>「Web・SNSで法人の魅力を発信 事業所ごとに発信力を競う仕組みも」

取材メモ

設立当時からの理念である「女性が働きやすい環境づくり」に向け、職員一人ひとりの声を取り入れて制度化を重ねてきた、その積み重ねが復職率98%という数字や、女性活躍推進大賞の受賞に繋がっているのだと実感できました。また、そのような制度づくりを進めていくため、人事部の皆さんが実際に、職員一人ひとりの声と向き合われている様子が今回のインタビューでわかりました。

今回のとなりの介護事業所は?

社会福祉法人奉優会近藤さん

近藤麻美(こんどうまみ)

社会福祉法人奉優会 管理本部 人事部 部長。2009年6月 奉優会に入職。人事、労務部門を経て現在は人事部長と労務の責任者を兼務し、採用、研修、労務等全般の管理に携わる。犬と猫を1匹ずつ飼っており、仕事を離れた時はペットと触れ合う時間が癒しとなっているそう。

社会福祉法人奉優会

特別養護老人ホーム 目黒中央の家

東京都世田谷区を中心に、100拠点以上を展開する社会福祉法人。2019年にオープンした「特別養護老人ホーム 目黒中央の家」では事業内保育所や、職員同士の打ち合わせ、地域住民の集まりにも活用できるコミュニティスペースが設けられており、地域社会と融和した介護施設を目指している。

サービス種別:特別養護老人ホーム、グループホーム、ケアハウス、デイサービス、認知症対応型デイサービス、ショートステイ、小規模多機能型居宅介護、訪問介護、居宅介護支援

住所:東京都世田谷区駒沢1-4-15 真井ビル5階
運営:社会福祉法人 奉優会