介護福祉士の採用・給与・キャリアパス

はじめに

介護福祉士は、高齢者や障がい者のサポートを行う専門職であり、日本の高齢化社会において、ますます必要性が増しています。介護・障がい福祉事業所の人事担当者が介護福祉士の採用やキャリアパスをどのように支援することが事業所の発展に大きく影響します。本記事では、介護福祉士の仕事内容や資格、給与、福利厚生、求人、転職、キャリアアップ、職場環境の整備について解説し、人事担当者が人材確保や定着に成功するための具体的な方法を紹介します。

介護福祉士の仕事内容と資格

・介護福祉士とは

介護福祉士は、主に高齢者や障がい者の方々の日常生活を幅広くサポートする専門職です。具体的な業務内容は、身体介助や生活支援、リハビリテーションのサポートなど多岐にわたります。また、利用者の心身の状態やニーズに応じた適切なサービスを提供するため、専門的な知識と技術が求められる仕事です。

・介護福祉士の資格とその取得方法

介護福祉士の資格は、厚生労働大臣が認定する国家資格です。受験資格は、大きく分けて3つのルートがあります。1つめは3年以上実務経験かつ実務者研修を修了するもの。2つめは養成施設ルートで、介護福祉士養成施設のカリキュラムがある福祉系専門学校の介護福祉科などを卒業するものです。3つめは福祉系高校ルートで、同じく介護福祉士養成施設としてのカリキュラムがある高等学校の福祉科などを卒業するものです。国家試験に合格し、登録申請をすると介護福祉士の資格を得られます。

・社会福祉士と介護福祉士の違い

社会福祉士と介護福祉士は、どちらも福祉業界で活躍する国家資格ですが、役割や専門分野が異なります。社会福祉士は、地域や個人の福祉問題に対応し、支援策を立案・実施する専門家です。一方で介護福祉士は、高齢者や障がい者の身体介助や生活支援を中心とした業務を担当します。どちらの資格も重要ですが、役割や業務内容に違いをよく理解した上で、求人や選考を行いましょう。

・介護福祉士の給与・福利厚生の重要性

介護福祉士の給与は、業界全体の労働環境改善が求められる中で、重要なポイントとなります。適切な給与水準や福利厚生は、働く介護福祉士のモチベーションや定着に大きく影響するため、事業所にとっても重要な要素です。競合他社との差別化や働きがいの向上を図るためにも、給与や福利厚生の充実が求められます。

介護福祉士の登録人数の推移と今後の見通し

厚生労働省が発表した介護福祉士の登録人数についてお伝えします。以下は、各年度9月末時点での介護福祉士の登録人数です。

・平成29年度: 1,557,352人

・平成30年度: 1,623,451人

・令和1年度: 1,693,165人

・令和2年度: 1,753,418人

・令和3年度: 1,813,282

(出典: 厚生労働省 https://www.moj.go.jp/content/001361945.pdf)

上記のデータから、介護福祉士の登録人数は年々増加していることがわかります。平成29年度から令和3年度にかけて、約26万人もの増加が見られています。この傾向は、今後も続くと予測されます。登録人数の増加に伴い、介護福祉士としてのスキルや専門性を高めることが、事業所の魅力向上につながります。

給与水準の現状と改善策

・給与水準の現状

介護・障がい福祉業界では、介護福祉士の給与水準が低いことが問題となっています。多くの事業所では、介護福祉士の平均年収が300万円台後半であり、他業界と比較しても低い水準です。このため、離職率が高く、人材確保が難しい状況が続いています。

・改善策の検討

給与水準を改善するためには、事業所の収益構造の見直し、加算の取得やコスト削減を図ることが重要です。効率的な運営に体質改善を行い、収益を増やすことが求められます。また、賃金体系の見直しや能力給の導入など、介護福祉士に適切な報酬を提供する制度を整備することも重要です。

・福利厚生の充実が人材確保につながる理由

福利厚生の充実は、人材確保や定着に大きく寄与します。休暇や資格手当、各種保険制度、退職金制度など、介護福祉士が安心して長期間働ける環境を整備することで、離職率の低減や人材の確保が可能となります。また、福利厚生の充実は、事業所の魅力や働きがいを高めることにつながり、求職者にとっても魅力的な条件となります。

・他業界との比較

介護業界と他業界の給与水準を比較すると、介護福祉士の給与は依然として低い水準にあります。しかし、最近では、社会的な課題である高齢化に伴い、介護業界の重要性が高まっており給与や待遇の改善が求められるようになっています。国からの処遇改善手当などの周知・活用し、他業界から転職してくる人材にも適切な報酬を提供することで、介護業界全体の魅力が向上し、人材確保がスムーズに行える可能性もあります。

介護福祉士の求人・採用・定着サポート

・求人広告の工夫

求人広告は、人材を集める上で重要な要素です。効果的な求人広告を作成するためには、給与や福利厚生だけでなく、働く環境や職場の雰囲気、研修制度やキャリアアップのチャンスなど、魅力的な点を具体的に伝えることが大切です。また、ターゲットとなる介護福祉士のニーズに合わせた訴求ポイントを設定し、効果的な画像掲載や文言を工夫することも重要です。

・定着サポート

介護福祉士が入職した際は、研修などの教育と働きやすい環境を提供することが求められます。経験者だからといって手順の説明やマニュアルもない状態で実務を任せることのないよう、適切なOJT(On the Job Training)を実施しましょう。また定期的な面談やメンター制度などを導入し、悩みや不安の早期解決やアドバイスができる仕組みを取り入れることも重要です。

介護福祉士のキャリアアップ

・関連資格のサポート

介護福祉士のキャリアアップのためには、実務に直結した他の資格取得の機会を提供することが重要です。移動介護従事者/ガイドヘルパー、喀痰吸引等研修、重度訪問介護従事者などの資格取得は介護福祉士の専門知識や技術を向上させ、より高度なサービスを提供できる人材に育てることができます。資格取得を通じて、最新の介護技術や知識を身につけることができるため、他の職員へのアドバイスなど組織全体のレベルアップにもつながります。

・現場以外の役割への展開

介護福祉士のキャリアアップの選択肢として、現場以外の仕事への展開も考えられます。例えば、管理職や研修や指導担当の役割です。現場で培った知識や経験を活かし、今後活躍する人材を育成する役割を担ってもらうことは、より優秀な人材を増やすことにつながります。ほかにはケアマネジャー(介護支援専門員)への支援があります。主な業務は利用者の相談業務やケアプランの作成のため、現場での仕事が体力的に厳しいという介護福祉士の選択肢が増えます。介護福祉士の経験を活かし、さらにステップアップできるよう本人の希望に沿った役割を用意しておくことが重要です。

・他職種への業務拡大

社会福祉士や精神保健福祉士の資格取得をサポートすることも介護福祉士のキャリアアップにつながります。役割は異なるため、より広範囲な福祉サービスに携わることが可能となり、キャリアの幅が広がります。社会福祉士は高齢者や障がい者以外に子どもや生活環境に問題がある人へ幅広い支援を行います。介護福祉士と比較すると支援の対象者が多いため、知識やコミュニケーション技術を向上させることができます。また、精神保健福祉士は、精神的な障がいを抱えている人の生活や社会復帰の支援を行います。障がい福祉の現場にも活躍の場を広げることができます。

職場環境の整備と人材定着

職場環境の整備と人材定着は、介護福祉士が長く働き続けるための重要な要素です。働きやすい環境を整えることで、人材の流出を防ぎ、定着率を向上させることが可能です。具体的な方法として、以下のポイントが挙げられます。

  • 施設内の設備や環境整備:清潔で整理整頓された施設は、スタッフが働きやすいだけでなく、利用者にも安心感を与えます。
  • 労働条件の見直し:適切な労働時間や休憩時間を設け、働きやすさを追求することで、職員のストレスを軽減し、働く意欲を高めることができます。
  • 職員同士のコミュニケーション促進:定期的に情報共有や意見交換の場を設けることで、職員間の連携がスムーズになり、仕事の効率が向上します。
  • 研修や教育制度の充実:新人教育や定期的なスキルアップ研修を実施し、職員の成長をサポートすることで、やりがいを感じる職場を作り上げることができます。
  • 評価制度の導入:公平な評価基準を設け、努力や成果を正当に評価することで、働く意欲やモチベーションを高めることができます。

これらの取り組みを充実させることで、職場環境が改善し、人材定着を促進することができます。介護福祉士が安心して働ける職場を作ることは、事業所にとっても利用者にとっても大切なことです。長期的な視点で人材定着を目指すことで、スタッフが安定して働ける環境が整い、結果的に高いサービスが提供できるようになります。

職場環境の向上と人事制度の改善

・コミュニケーションの向上

介護・障がい福祉職の転職理由で多いのは「職場の人間関係」です。職員同士が円滑なコミュニケーションがとれており、明るく、助け合いのできる職場が好まれます。職員同士のコミュニケーション強化の具体策としては、定期的なミーティングの場を設けることがおすすめです。業務や働き方の意見交換や情報共有を行うことで、お互いの理解が深まるでしょう。また、交流を促すために懇親会やイベントを企画することも有効です。

・チームワークとモチベーションの維持

チームワークとモチベーションは職員の働きやすさや業務効率に大きく影響します。管理職やリーダーは、職員の悩みや意見に耳を傾け、チームが円滑に業務を行えるようサポートを行います。個人の成長はチーム全体の底上げにつながります。目標設定を明確にし、チーム全体が目指す姿に向かって日々業務ができるようにするとよいでしょう。また適切なフィードバックを行うことで、より高い成果を出してもらえる環境を作ることができます。

・人事評価制度の導入と公平な評価

人事評価制度の導入と公平な評価を行う仕組みは職員の働きやすさや定着に繋がります。評価基準を明確にし、業務成果やスキル、チームへの貢献度などを考慮した公平な評価を行うことが重要です。また、昇進や昇給、賞与などは成果に応じて反映される仕組みにすることで、介護福祉士のモチベーションを維持することができます。これらの取り組みが実践できている職場であれば、十分な人材を確保することができ、定着率も高めることができます。介護・障がい福祉サービスは提供する人材がいないと成り立ちません。働きやすい職場環境の整備を一度に進めることが難しい場合でも、少しずつできることから取り組み、魅力的な職場にしていくことが重要です。

まとめ

本記事では、介護福祉士の仕事内容、資格、給与、福利厚生、求人、採用、キャリアアップ、定着、職場環境の整備など、幅広い情報を提供しました。人事担当者はこれらの情報を参考に、人材確保や定着に向けた課題を洗い出し、改善していくことが求められます。

介護福祉士がスキルアップし、キャリアを積むことができる環境を整えることは、事業所の運営にとって重要です。人材が安定して働けることで、サービスの質が向上し、利用者にも良い影響を与えることができます。ぜひ前向きに取り組んでみてください。