介護・障がい福祉職員不足の背景と、離職防止に必要な取り組みとは?

介護・障がい福祉業界は、労働の負荷が高いにも関わらず賃金が低い傾向があります。そのため、離職が起きやすく慢性的な人手不足に陥りがちです。日本は高齢化社会を迎えており、労働人口が減少しているのに、介護が必要な高齢者割合が増えるといった需要と共有のバランスが取れなくなっているため、高齢者介護の職員不足はかなり深刻化しています。本記事では、介護・障がい福祉職員の離職原因と、離職を防止するための取り組みについて解説していきます。

介護・障がい福祉職の定着率の低さとその背景

介護・障がい福祉業界では、人手不足が常態化している職場が多くなっています。そのため、新しい職員を採用することだけでなく、既存職員の定着率向上も喫緊の課題です。介護・障がい福祉業務は、体力やメンタル面の負担が大きいことから、適切なサポートを行わないとすぐに辞めてしまうケースが多いのが現状です。

背景には人手不足の状態で人員配置が行われるため、職員一人ひとりが担当する業務が多くなってしまう、また十分に休養がとれない状態でシフトが組まれるなど労働環境の悪さが大きく影響しています。さらに忙しさによる人間関係の悪化などさまざまな要因が介護職員の離職を招いているのです。。

事業所はこのような現状を把握し、介護・障がい福祉職員が長く働き続けられる職場環境に改善することで定着率を向上させることができます。人事担当者は現在の職場環境における問題点を把握し、どのような環境改善や支援を行うべきかを早急に検討しましょう。

本記事では、介護・障がい福祉職員がすぐに辞めてしまう原因と対策を解説し、人事担当者が取り組むべき職場環境の改善やサポート方法について詳しく解説します。できることから取り組み、介護・障がい福祉職員の定着率向上に努めていきましょう。

労働環境を改善し、働きやすい職場環境へ

介護・障がい福祉職員が早期に辞めてしまう原因で最も多いのは、労働環境に改善が必要な状況がある点です。当然ですが、働きやすい職場に改善することで、職員が長く働き続けられるようになります。以下に、労働環境の改善に取り組むための3つのポイントを紹介します。

・業務負荷の軽減

介護・障がい福祉職員が抱える業務の多さは、過労やストレスの原因になります。業務プロセスの見直しや、業務を効率化するITツールの導入を検討し、業務負荷を軽減しましょう。また、資格や経験が必要な介護業務に集中できるよう、介護以外の業務を担当する臨時職員を配置するなど適切な人員配置や業務分担も重要です。

・労働条件の見直し

給与や勤務時間、休日の取得に関する条件は、介護・障がい福祉職員の働きやすさに直結します。周辺の競合事業所と比較して条件が劣っていないか、能力に応じた適正な評価・昇給制度が整っているかを確認し、必要であれば労働条件を見直しましょう。そのためにも競合各社の求人情報は随時チェックすることをお勧めします。

・コミュニケーションの向上

「職場の人間関係の悪さ」は退職理由の上位に挙げられます。職場の人間関係がギスギスしていると、精神的に大きな負担になり、業務の質にも大きく影響します。職員が上司や同僚との円滑なコミュニケーションができる職場環境を作ることが重要です。具体的には定期的な意見交換会や相談窓口の設置、懇親会など良好な人間関係を築ける機会を設けるよう努めましょう。

労働環境の改善は、介護・障がい福祉職員が長く働くための基盤を整える重要な要素です。業務負荷の軽減、労働条件の見直し、コミュニケーションの向上に取り組むことで、働きやすい職場を実現し、介護職員の定着率向上に繋げましょう。

新人職員の教育とサポート

新人職員は、少なからず新しい職場に不安を抱えて入職してきます。早期離職を防ぐためにはスムーズに業務に取り組める、また環境になじめるよう適切な教育とサポートが不可欠です。特に最初の3か月は重点的にフォローをすることで、定着率が高まります。以下では未経験者や中途採用で入社した介護・障がい福祉職員が定着するための教育・支援方法について紹介します。

・オリエンテーションと研修プログラム

入職時は最初のステップとして、必ずオリエンテーションや研修プログラムを実施しましょう。オリエンテーションでは、職場のルールや方針、業務の概要を説明し、新人が安心して働ける環境を整えます。研修プログラムでは、実際の業務に即した介護技術や知識が身につく実践的なカリキュラムを用意しましょう。特に未経験者は不安を抱えています。十分な説明や業務中の見守りなどを徹底し、少しずつできることを増やしていけるようにするとよいでしょう。また、技術面だけでなく社員間のコミュニケーションがとれるような機会を研修時に実施することも重要です。

・メンター制度の導入

新人職員には、経験豊富な先輩がメンターとなってサポートする制度を導入しましょう。同じくらいの年代の職員がいればさらに適任です。メンターは、新人が業務に慣れるまでの間、介護技術の指導やアドバイスを行い、新人が自信を持って独り立ちできるようサポートします。また、新人職員の悩みや不安を積極的にヒアリングし、適切なアドバイスを行うことで安心して働くことができます。孤独にしないよう気を配りましょう。

・定期的なコミュニケーション

新人職員の定着を確実にするためには定期的なコミュニケーションをとり、必要なフォローアップをし続けることが重要です。上司や人事担当者が、業務遂行状況や悩みを定期的に確認またはヒアリングをし、適切な支援を提供しましょう。これにより、新人職員がぶつかる壁や抱える問題を早期に解決し、働く意欲を高めることができます。

新人職員の教育と支援は、定着率向上に欠かせない要素です。適切なオリエンテーションや研修プログラム、メンター制度の導入、定期的なフォローアップを通じて、新人職員が自信を持って働ける環境を整えましょう。これらの取り組みにより、新人職員がスキルアップし、長期的に働く意欲を持ち続けることが期待できます。教育・支援体制を整えることで、新人職員が安心して働ける環境を提供できるだけでなく、既存職員のスキルアップやチームワークの向上にも繋がります。

働き方改革を取り入れる

介護・障がい福祉職員の定着率向上には、働き方改革が欠かせません。子育て世代、シニア世代などそれぞれが抱えやすい事情を考慮した柔軟な働き方を実践することで、離職を防ぐことができます。以下では、働き方改革の具体的な取り組みについて紹介します。

・適切な労働時間

長時間労働が続くと、介護・障がい福祉職員の健康に悪影響を与えるだけでなく、モチベーションも下がってしまいます。そのため労働時間の適切な管理が必要です。過度な残業が常態化していないかなど、職員の労働時間を適切に把握しましょう。また夜勤がある場合は、無理なシフトを組まないよう配慮することも重要です。過重労働は業務中の事故やミスにもつながるため、早急に対応することが求められます。

・休憩時間や休日の確保

十分な休憩時間や休暇を取得できるようにすることで、疲労回復やストレス軽減が期待できます。休憩中も業務を行わなければいけないような状態は好ましくありません。ON・OFFをしっかり切り替えられるよう、休憩スペースの改善を取り入れるのも効果的です。またシフトの見直しや、有給休暇の取得促進など、できるだけ職員の希望に合った休日の確保に努めましょう。

・福利厚生の充実

福利厚生を充実させることで、給与以外でもメリットを感じることができ、働くモチベーションを高めることができます。家賃補助や保養施設の利用、育児支援や介護支援など、様々な福利厚生を検討してみましょう。外部の福利厚生サービスに加入することで、導入や運用の手間を軽減することもできます。勤務していることで様々な支援を受けられる福利厚生が充実していると定着率が高まります。

どの業界でも働き方改革は人員確保のために重要だと言われています。特に介護・障がい福祉職員は心身ともに業務負担が高いため、働き方改革を推進していくことは定着率向上にとって重要な要素です。適切な労働時間、休憩時間や休日の確保、福利厚生の充実に取り組むことで、介護・障がい福祉職員が長期的に働き続けられる環境を整えましょう。これらの取り組みにより、介護・障がい福祉職員のストレスが軽減し、ワークライフバランスを保つことができるでしょう。

安全と安心を提供する

介護・障がい福祉業務は、移乗や排泄介助、感染症対策などの業務を負担に感じる職員も少なくありません。また事故が起きないよう細心の注意をはらう場面も多いので安全面を徹底することで、ストレスが軽減され長期的に働き続けられる職場になります。以下では、業務中に安全と安心を感じてもらえるための職場環境の改善に取り組むポイントについて紹介します。

・職場の清潔さと安全性の確保

職場が清潔で安全な状態を保つことは、介護・障がい福祉職員がストレスなく働くための基本です。定期的な清掃や消毒、換気などを行い清潔な状態を保つようにします。安全対策の徹底も重要です。備品や書類の整理整頓をしておくことで、転倒事故などを防ぐことができます。また、職場内での感染症対策はマニュアルの整備や研修などにも力を入れることが重要です。

・職場内の設備や機器の整備

職場内の設備や機器が正常に動作していることで、安全かつ効率的に業務を行うことができます。使用頻度の高い機器や設備の安全点検やメンテナンスに努め、作業環境を快適に保ちましょう。誰が見ても操作できるよう、マニュアルの整備も重要です。またどのような機器があれば業務負担を減らすことができるかなど、現場職員の意見を定期的にヒアリングし、導入や交換の計画を立てることも効果的です。

・職場の風通しを良くする

オープンなコミュニケーションが取れる職場環境は、心理的に安全で働きやすい環境になります。お互いが建設的に意見や提案ができる雰囲気、職場全体で情報共有がスムーズに行われる仕組みを確立することが求めれます。また上司や人事担当者が職員の意見や要望に耳を傾けることで、不満を抱えることなく業務に取り組むことができます。人間関係は定着率に大きく影響します。チームワークが強固になれば、定着率が上がるだけでなく、強い組織ができ、職員は働くことに誇りを持てるようになります。

働き方改革とともに安全で安心して働ける職場環境を提供することで、さらに定着率を向上させることができます。そのためには職場の清潔さと安全性の確保、設備や機器の整備、風通しを良くする取り組みが重要です。

適切なマネジメンント

介護・障がい福祉職員の定着率向上には、適切なマネジメントを行うことも欠かせません。職員一人ひとりが能力向上の支援を受けることで、成長を感じ、長く働きたいと思える職場になります。そのためには適切なサポートを行うことができるよう、マネジメント層を育成することも重要です。

・人材育成に力を入れる

優秀なリーダーは、部下のスキル向上や成長を促すことができます。業務の手順だけでなく、仕事の向き合い方や問題解決の方法など、さまざまな場面で適切な指導やアドバイスを行いましょう。人材育成に力を入れることで、職員が自己成長を実感し、働く意欲が向上します。また事業所の理念や運営のあり方などを伝えていくと一体感のある組織を作ることができます。

・定期的にフィードバックを行う

四半期、半年、一年などの節目で職員一人ひとりに業務や目標に対する進捗状況を確認するようにしましょう。部下がうまくいっていること、いっていないことを把握し、次の具体的なアクションを一緒に考えることで、職員のモチベーションやスキル向上が期待できます。上司と部下が信頼関係を構築するためには、定期的にコミュニケーションをとることが重要です。

・職員の意見や要望に耳を傾ける

職場の不満をため込んでしまうと、ある日突然に耐えきれなくなり、急な離職を招く恐れがあります。普段からリーダーは職員の意見や要望に耳を傾け、適切なアドバイスや改善を行うことで、職場の雰囲気が改善されます。部下が意見や要望を伝えやすいような仕組み作りも上司の役割です。意見交換の会議を開催する、メールなどの受付窓口を設けるなどの策を検討してみましょう。

・マネジメント層を育成する

人材育成を行うためには、リーダーシップを持つマネジメント層の育成が重要です。マネジメント層にはリーダーシップ研修を実施することで、リーダーシップの定義や基礎知識、コミュニケーション方法、問題解決能力などを身につけてもらうとよいでしょう。また、マネジメント層がリーダーシップを発揮し、部下の力を最大限に引き出せているかを評価する仕組みを整備することも重要です。一定の経験を積んだ職員にはマネジメント層へキャリアップできる選択肢もあるとよいでしょう。

まとめ

介護・障がい福祉職の定着率が低い原因と対策についてご紹介してきました。具体的には労働環境の改善、新人職員の教育・支援、働き方改革、安全への配慮、適切なマネジメントの提供があります。人事担当者はこれらの対策を継続的に実践し、定着率アップを促進していきましょう。人材が定着する職場は組織力が強いため、サービス品質も高まり、結果的に安定した事業所運営を行うことができます。