介護・障がい福祉の事業者は、職員自身がやりたいと考える業務の実現や、キャリアアップを目指せる環境を整備することが重要です。研修や育成プログラムを提供することで、介護職員のモチベーションが高まり、定着率が向上します。また、職員一人ひとりのスキルが高まることで、介護の質の向上にもつながります。ここでは、介護職員の研修と育成プログラムの目的や実施内容、運用のコツをご紹介します。
介護・障がい福祉職員の研修と育成プログラムのちがい
研修と育成プログラムはどちらも職員のスキルアップを目指しますが、短期的な学びと長期的な成長を区別します。
・研修
短期間で特定のテーマや技術を学ぶことが主な目的です。例えば、新入社員研修では会社のビジョンや方針を理解し、基本的なビジネスマナーやコミュニケーションスキルを身につけます。感染症対策研修では、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症対策を学び、衛生管理や感染予防の方法を習得します。また、虐待防止・身体拘束研修では、利用者の権利を守り、適切な介護方法を学ぶことが目的です。
・職員の育成プログラム
長期的な視点で職員のスキルや能力を幅広く向上させることを目的としています。例えば、メンター制度を導入して先輩職員から業務のノウハウを学んだり、定期的に開催される勉強会に参加して専門知識を深めたりします。また、職員のキャリアパスを明確にし、スキルアップや昇進に向けて目標を設定し、達成度を定期的に評価することで、職員の成長を促進します。
研修と育成プログラムはそれぞれ異なる目的やアプローチがありますが、どちらも職員のスキルアップや能力向上に役立つ重要な取り組みであり、適切に運用することが重要です。
職員の研修を行う目的と内容
研修を行う目的をさらに細かく見ていきましょう。また具体的な研修の例を挙げていきます。
・業務の理解を深めるため
職員を採用し、即戦力として活躍してもらうためには入職時の研修が重要なことは言うまでもありません。まずは介護業務の未経験者と経験者用のプログラムを用意するとよいでしょう。業務に就く前に、十分な研修を行うことで、介護職員の不安を取り除き、スムーズに業務に入ることができます。また質の高いケアを提供するためには業務に役立つ様々なテーマで随時、知識のアップデートを行うとよいでしょう。
※未経験者向け入職時研修、経験者向け入職時研修、リーダー研修、管理職研修、リスク管理・感染症対策研修など
・質の高いケアを提供するため
職員が適切な知識や技術を身につけ、常に最新の情報にアップデートしていくことで、より安全で質の高いケアを提供することができます。またストレス対策や円滑な人間関係を構築するための知識を身につけることで、心身ともに健康な状態で余裕を持ったケアを提供することができます。
※認知症研修、コミュニケーション技術研修、身体介助技術研修、接遇マナー研修、アンガーマネジメント研修、ストレス対策研修など
・業務効率化のため
IT化など新しい仕組みを取り入れた時は、対象職員全員が活用できるよう研修を行うことで、作業効率がよくなり、導入メリットを最大限に活かすことができます。また、事故やトラブルを未然に防ぐためにも、職員が正しい知識や技術を持つことが重要です。
※ロボットセンサー研修、入浴機器研修、タブレット入力研修など
次に、研修の実施方法やコストや時間を最小限におさえるための具体例をみていきましょう。
研修の実施方法
実施タイミングや研修にかかる時間やコストなどを考慮し、研修の目的やテーマに応じて適切な実施方法を選びましょう。
・現場でのOJT
マニュアルによる業務説明を行ったうえで、現場でのOJT(On-Job-Training)を始めます。OJTは実際の現場での業務を通じて、職員として必要なスキルや知識を身につけていきます。OJTは経験豊富な先輩職員に担当してもらうとよいでしょう。手本を示す、一緒に業務を行う、見守るなど習得度合いによってステップアップしていく方法がおすすめです。行き当たりばったりではなく、業務の流れが把握できるような指導を行うと習得効率がよくなります。
・資格取得支援
介護職員が取得できる資格には、介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)、介護福祉士実務者研修(旧ヘルパー1級)、介護福祉士、ケアマネジャー(介護支援専門員)などがあります。これらの受講費用や時間を支援する制度を設けると良いでしょう。資格取得支援は、有効な研修制度の一つです。未経験者は、まず介護職員初任者研修を取得することで、介護業務の知識が広範囲に身につきます。また、経験者に対しては、業務の習得度合いや本人の意向に応じて必要な資格取得をサポートすると良いでしょう。
・外部の研修
マナー研修やコミュニケーションスキル研修、傾聴スキル研修、ストレスマネジメント研修、危機管理研修など、施設で役立つ一般的な知識やスキルを身につけるためには、外部の研修を活用すると良いでしょう。専門知識を持った講師が適切なプログラムを用意しているため、効率的に知識や技術を習得することができます。
コストや時間なくてもできる研修
研修を取り入れたいけれど、コストや研修に割く時間が足りないと導入に踏み切れない場合の対処法を見ていきましょう。少しずつでも実施していくことが重要です。
・既存職員を講師にする
経験豊富な職員が講師を務め、他の職員に技術や知識を共有する場を設けることで研修を実施することができます。異業種からの転職組がマナーやITなど介護業務に役立つ知識を持っている可能性もあります。また職員同士で意見交換や学び合う場があることでコミュニケーション強化にもつながります。
・オンライン研修の導入
オンライン研修は場所や時間を選ばずに参加できます。パソコンやスマートフォンで閲覧できるため、移動の時間や交通費も不要です。インターネット上には無料動画やWebセミナーが多数あるので探してみましょう。オンライン研修の最大のメリットは費用を抑えながら多くの介護職員に研修を提供できることです。
・書籍や記事の活用
書籍や専門誌、インターネット上の記事などを活用するのもおすすめです。気になった記事を印刷またはメールなどで共有することで、職員自身が自己学習を行うことができます。また、職員同士で読書会や読み合わせ会を行うことも効果的です。意見交換や情報共有を行うことで知識のアップデートが行われます。
介護職員の育成プログラムとは
研修は単発のものを複数回実施しますが、育成プログラムは介護職員個人の役割や能力にあわせて、長期的に行います。育成を行うことで、職員一人ひとりが成長を実感することができ、モチベーションアップにつながります。
・年単位での目標設定
組織全体の目標を共有し、各個人が達成するために行うアクションを設定します。何をいつまでに実行するか、どのような関わり方をするかなど数値目標も踏まえて設定するとよいでしょう。年初に上長と一緒に設定します。3ヶ月、半年など定期的に振り返りの時間を設け、達成度合いや目標の追加や変更などを行うことでより精度が高まります。期末に必ず結果を共有し、良かったところと悪かったところをフィードバックすることで、次のアクションがわかりやすくなります。
・キャリアマップ
現場職員、リーダー、管理職によって求められる役割が変わってきます。それぞれのステージで求める必要な実務経験やマネジメント能力を可視化(キャリアマップ)しておくと、ステップアップがしやすくなります。
・職種別スキル
介護職員には、介護士だけでなく、ケアマネジャーや生活相談員、サービス提供責任者などさまざまな職種があります。職種ごとに必要な能力や役割を明確にしておくことで、キャリアチェンジがしやすくなります。
介護職員の業務スケジュールには大枠があり、ルーティンワークになりやすいため、「日々、業務をこなすだけ」の状態になってしまいがちです。各職員がやりがいやモチベーションを維持・向上させるためにも、目標設定を行い、求められる役割を明確化しておくことが重要です。
育成プログラムを持続させるコツ
介護職員の育成プログラムは長期間、継続的に行うことが重要です。持続させるためのコツをみていきましょう。
・経営陣の支援
介護職員の育成プログラムを持続させるためには経営陣の理解と支援が欠かせません。経営陣が育成プログラムの重要性を認識し、積極的に支援することで、育成プログラムを運用する側も利用する側の職員のモチベーションも維持することができ、継続的な取り組みが可能になります。
・納得感のある目標設定と評価
目標設定と評価はどちらか欠けてしまうと機能しません。目標設定をするときはできるだけ具体的な目標と達成するためのアクションを設定します。目標は達成の現実味があるものにすることが大切で、お互いに納得すり必要があります。また定期的に必ず達成度や課題をフィードバックしましょう。職員が育成プログラムに取り組む意欲が高まり、効果的にステップアップができるようになります。
・育成プログラムの継続的な見直し
育成プログラムは一度作成したらおしまいではありません。実態とかけ離れてしまっていると課題を感じた場合は内容を見直しましょう。現場の状況や職員の役割や能力に応じた育成プログラムになっているかが重要です。
・報酬や昇進の提供
育成プログラムにより、職員の能力やスキル、貢献度が高まった場合は達成度に応じて、報酬や昇進機会の提供を行いましょう。一方的に成長だけを求めてしまうと、介護職員が育成プログラムに取り組む必要性を感じなくなってしまいます。
職員の研修や育成プログラムを整備し、一人ひとりの能力やスキルを継続的に育成していくことは重要です。この育成を疎かにしてしまうと、職員のモチベーション低下を引き起こし、離職が増える原因になります。また提供するケアの質も低下するため利用者にも悪影響を及ぼします。コストや時間がなくてもできることから少しずつ取り入れていきましょう。