はじめに
介護・障がい福祉業界における人材採用はますます競争が激化しています。優秀な人材を採用し、定着させるためには、競合法人との差別化が重要です。本記事では、求職者から選ばれる職場となるための基本的な差別化戦略について解説します。また、自社がどのように差別化を図るか見つけることが難しい場合や、魅力を感じてもらう方法が分からない方に対して、自社の差別化を実現するためのヒントを提供します。
差別化とは何か
採用を成功させるためには、求職者が貴法人を「ここで働きたい!」と選んでもらうことが重要です。そのためには、求職者が貴法人を「良い職場だ」と思う理由を提供する必要があります。人々は何かを選ぶ際には必ず比較を行います。多くの選択肢の中から選ばれるためには、自社の優れた点をアピールすることが差別化の鍵です。まずは身の回りにある他社の差別化の事例を見てみましょう。
<カフェの事例>
「女性に選ばれる」ことで差別化されているカフェがあります。このカフェの特長は食器がおしゃれ、居心地のよい空間、そして低カロリーのスイーツです。
<りんごの事例>
「贈り物に選ばれる」ことで差別化されているりんごがあります。このリンゴの特長は高級感のある包装をしてくれる、縁起のよい商品名がつけられている、そして無農薬・有機栽培です。
<靴の事例>
「営業職に選ばれる」ことで差別化されている靴があります。この靴の特長はかかとが減りにくい、蒸れにくくて臭いがおさえられる、防水加工がされています。
絶対的なNo.1でなくてもよい
この3つの事例からわかる通り、、これらの商品やサービスは特定の人に選ばれています。。類似の商品やサービスが多い場合や差がつきにくい場合でも、差別化は必ずしも絶対的なNo.1になることを求めるものではありません。範囲(業界や地域)と対象を絞り込んだ中で優れたポイントをアピールすればよいのです。
独りよがりの差別化に要注意
差別化は主観ではなく、客観性が大切です。どんなに優れていると自信を持ってアピールしても、選ぶ立場から見て優位性があると認識されなければ、差別化はうまくいきません。介護・障がい福祉人材採用の場合、求職者が比較している近隣の競合他社を意識することがポイントです。そこで、早速範囲と対象を絞って差別化できている状態と、差別化できていない状況を比較してみましょう。
<範囲:競合法人>
競合法人 時給平均1,550円 資格手当は介護福祉士のみ | ×差別化できていないケース 時給大幅アップ 1,450円 | ◎差別化できているケース 資格手当あり 初任者研修 : 3,000円/月 実務者: 5,000円/月、介護福祉士 :10,000円/月 |
<対象:求職者の働き方>
求職者のマインド プライベート重視の傾向が ある | ×差別化できていないケース 月1回飲み会開催 (参加費0円) | ◎差別化できているケース 有給休暇取得率:90%で取得しやすい※3年連続 |
このように選ぶ立場(求職者)のニーズからずれている、比較対象の競合法人と比較しても差異がない、劣ってしまっているとアピールしても差別化にはつながらなくなるので要注意です。また世間で当たり前と認識されていることも差別化とはならないので、客観的な視点で見直してみるとよいでしょう。
やっぱり大手法人が有利なのでは?
比較されているとなれば、大手法人の方が有利になるのではと考えがちですが、それは違います。例えば、全国展開している大手法人のようなコストをかけた教育体制が整っていなかったとしても、近隣の競合法人と比較して手厚い教育や研修があれば差別化できていることになります。求職者はどんなに良い条件の法人があっても通勤を考慮すると通える範囲で探しているからです。差別化するときは比較と客観性を掛け合わせて、魅力になるかという視点で考えることが重要です。
介護・障がい福祉人材採用に差別化が必要な理由
少子高齢化の影響であらゆる業界の人手不足が深刻になっています。介護・障がい福祉分野もこの傾向は顕著です。有効求人倍率は全国で4.4倍、大阪は約6倍、東京では約8倍と超売り手市場。このような厳しい環境では、求職者に選ばれる「差別化された」法人にならないと人材確保は一層難しくなるでしょう。
<有効求人倍率>
全国:4.4倍 | 4法人で1名の求職者を取り合っている状態 |
大阪:5.7倍 | 6法人で1名の求職者を取り合っている状態 |
東京:7.9倍 | 8法人で1名の求職者を取り合っている状態 |
介護・障がい福祉人材は熾烈な取り合いが続いています。全産業の有効求人倍率を考慮すると、採用の難しさは約5倍と言われています。差別化することで選ばれる法人になることが急務です。
介護・障がい福祉職は同質性が高い
介護・障がい福祉サービスは公的な役割として存在しています。税金や保険料により支えられているため、独自性の高い取組みを行うのが難しいのが現状です。そのため、業務内容や待遇、利用者などは全国でほぼ同じものになります。採用活動の中で差別化できる点を見つけ、アピールしていくことで競合他社より有利に採用を進めることができるでしょう。
比較が当たり前の時代
人が何かを選ぶとき、「失敗はイヤだ」「損をしたくない」心理がはたらきます。特に仕事は人生を左右する大きな選択のため、求職者が職場探しの際に比較をするのは自然のこと。インターネットの普及で比較が誰でも容易にできるようになりました。求職者は比較専用のWebサイトやSNSなどから多くの情報を得ています。誰もが簡単に比較ができる時代だからこそ、ますます差別化が求められています。
競合は近隣の法人に絞る
求職者は複数の法人を比較しながら、自分の求める条件に合った職場を探しています。とはいえ、通勤時間を考慮すると比較対象は一定距離内にある法人です。日本全国の法人を対象にすると差別化が難しい点も近隣法人に絞って、比べれば、立派な優位性になる可能性があります。自信を持って求職者にアピールしていきましょう。
<職場選びに勤務地は重要>
異業種から介護職へ | 主婦から介護職へ | 自営業から介護職へ | 無職から介護職へ | |
1位 | 職場の雰囲気 | 職場の雰囲気 | 職場の雰囲気 | 職場の雰囲気 |
2位 | 給与 | 勤務地 | 給与 | 給与 |
3位 | 勤務地 | 給与 | 勤務地 | 勤務地 |
<求職者の声>
- 通勤できる範囲でできるだけ条件に近い職場を探します
- 無理なく通勤できる範囲でないと長く続かない
差別化できるものを見つける方法
差別化の大切さはわかるけれど「ウチにはこれといった特徴はない」「待遇が良いとはいえない」と諦めていませんか。差別化になるものは、ユニークな取り組みや給与などの労働条件だけではありません。まずは3つの側面から自社の状況を把握することから始めましょう。
<3ステップで見つける差別化>
- 強みを知る:自法人の優れたところを挙げる。些細なことでもよいので、できるだけ多く書き出してみましょう。
- 弱みを知る:マイナス点を洗い出す。弱みは改善すれば、強みに変えられます。多くても気にせず挙げていきましょう。
- 競合を知る:近隣法人の待遇や社風をホームページなどから探ります。ネットで評判も検索してみましょう。
自社では当たり前のことも差別化ポイント
差別化するのは難しく感じるかもしれませんが、上記の3ステップで自社や競合のことを知ることで、候補に挙がる差別化ポイントは意外とたくさん出てきます。例えば、「持ち帰りの業務がない」や「ベッドメイクや清掃は専用のスタッフが対応する」といった自社で当たり前のことでも、差別化の要素となるケースもあります。競合他社ではサービス残業があったり、介護以外の業務が多くて利用者と向き合う時間が不足している場合、求職者は退職を考える可能性もあるでしょう。小さな差別化ポイントが複数集まることで、求職者にとって魅力的な存在となることもあります。ぜひ、自社の差別化できる点を見つけ、求職者にアピールしてみてください。